アメリカひとり旅日記3

9月19日(水) チワワ〜ファレス〜エルパソ  晴れ

 

 前7時、メキシコ最後の宿を後にした。昨日食ったタコスが辛すぎて腹の調子が悪く出発が遅れてしまった。郊外の長距離バスのターミナルまでタクシーを使おうかとも考えたが、市バス乗り場まで行ったら簡単にターミナル行きのバスが見つかった。3.5ペソ。やたら遠回りするバスだった。来た時と同じようにバス停のない所でも乗客を拾いながら走るのでさらに時間がかかった。ファレスまで10時間かかると聞いていたのでとにかく早く長距離バスに乗ってファレスに着き、日が暮れないうちにアメリカ国境を渡りたかった。

 

 バスは来た時の倍ぐらいの時間をかけてバスターミナルに到着した。おとといクリールから着いた時にファレス行きのバスの時刻を確認したカウンターに向かった。スペイン語が分らず苦戦しながらもなんとかファレス行きのチケットを手に入れることができた。250ペソ。思ったよりも安い。600ペソは覚悟していたのに。何時間でファレスに到着するのかを聞いてみたらたったの5時間。10時間と思っていたので拍子抜けしちまった。高速道路を飛ばすから距離があっても早く着くのだ。午前9時発のバスまで時間があったのでターミナルの外でタバコを吸っていたら腹の調子が悪くなってきた。やっぱり昨日食ったタコスのせいだ。去年も一昨年の旅でも宿以外のトイレでウンコをしたことはなかった。でも、これは緊急事態。長距離バスでもようしたらヤバい。ティファナからラパスまでのバスのトイレはとても座れる状態ではなかったので、今度のバスもそうだったらアウトだ。2ペソを払ってトイレに入った。便座があったのでなんとかなった。でもトイレットペーパーはなかった。入口で必要な分だけ自分で取って来なければならないようになっていた。

 

 ーミナルの待ち合い室からバス乗り場に出るには金属探知機のアーチをくぐらなければならない。俺がくぐったら、みごとにブザーが鳴った。係官が飛んできたが、「ファレス行きにのるのか?」と言われただけでノーチェック。何のための金属探知機じゃ?バスはとんでもなくいいバスだった。グレイハウンドよりも断然いい。フットレストもヒザ下から足を乗せられるようになっているしシートもふかふか。映画も上映している。それなのに、チケットを買う時に窓側を指定して買ったのになぜか通路側。しかもガラガラの車内なのにおばあちゃんの隣。わけわからん。なんで、他の空いてる席に座れないんだ?隣のおばあちゃんは、俺がスペイン語は分らないと言っているのにやたら話しかけてくるんで困ってしまった。

 

 時間ぐらい走るとガソリンスタンドだかなんだか分らない所で休憩があった。ここは屋台が何軒も並んでいてバスから降りると客引きがうるさかった。俺は飯を食う腹の調子ではなかったのでトイレの前でタバコを吸っていた。するとトイレ番のオヤジか俺を手招きしている。「オマエはメキシコ人か?」と聞くためにだけに俺を呼んだのだった。(そんなことでわざわざ呼ぶなよな)「いや、日本から来た。」と俺は答えただけだった。が、せっかくだからトイレに入ってみることにした。5ペソ払ったらそのオヤジ、釣銭をよこさない。日本人をバカにしやがって!

 

 んなこんなでバスは午後1時半にファレスのターミナルに到着。またもや運よくセントロ行きの市バスがやって来た。20分ぐらいでセントロらしき所に入った。でも、去年エルパソから国境を越えてファレスに来た時の辺りしか俺には土地カンがなかった。が、無情にもバスは俺の全然知らない場所で終点になってしまった。降りたらいきなり市場だか商店街だかわけのわからないごみごみした所だった。当然観光客なんていそうもなかった。遠くに教会が見えたので、あれはセントロの中心に違いないと思ってデコボコの道を人をかき分けながら歩いた。とにかくアメリカ国境は北にあるはずだ。そう信じて方位磁石を使いながらひたすら歩き続けた。ファレスの地図は「地球の歩き方」にも載っていない。どの通りを北に行ったらいいのかも分らなかった。そのうちに人通りもないヤバそうな道に入ってしまった。ふと、十字路でメキシコのオバチャンに声をかけられた。英語が少しできるらしい。「どこに行く?あんたの持ってるバッグいいねぇ。」「オマエどこから来た?どこに行く?」とうるさく話しかけてくる。俺は「国境はどっち?」と尋ねてみたが、オバチャンはおかまいなしにしゃべってる。「オマエ、結婚してるか?私も結婚していないから家に来るか?」なんでアンタの家に行かなきゃならないんだ?と思いながら「国境はどっち?」と聞いてみたが、またもやオバチャンは「どこへ行く?」とまたもや俺の質問を理解していない様子。いい加減、疲れてきたのでオバチャンを振り切って歩いた。

 

 ばらく歩くと、ほどなく懐かしい国境の橋に出た。なんか去年の記憶とギャップがあったが、間違いない。メキシコ側のゲートを通ろうとすると女の係官が出て来て通してくれなかった。「バッグをこっちへよこせ。」と言っている。出国なのに荷物チェックなんてあるはずがない。なぜか民間人のガキが係官の後ろから現れて俺のバッグを持って行ってしまった。ついて行こうとすると「オマエはゲートを通れ。」と係官に言われた。ゲートを通過するとバッグが戻って来た。何のことか分らなかった。バッグをチェックするわけでもなさそうだし・・・。俺のバッグを持ち去ったガキがまた現れてバッグを国境線まで運ぼうとした。もちろん断わった。小銭稼ぎをしたかったらしい。たぶん、さっきの女の係官もグルに違いない。

 

 を渡りきると今度はアメリカ側の入国審査だ。イミグレーションの外にはマシンガンを持って武装した人が立っていた。ニューヨークのテロ事件があったので警戒しているのだと思う。入国審査を終えて荷物のチェックをしてもらった。テロ事件があったのでアメリカ入国が難しいことを想定していたが、いろいろ質問されただけでなんとか入国できた。イミグレーションを出ると文明の匂いがした。懐かしいエルパソの街。きれいな道路。信号もある。そのまま、まっすぐユースへ急いだ。懐かしのユースが見えて来た。

 

 ースの中に入るとフロントにアントニオの姿はなかった。まだ寝ているらしかった。代わりにフロントにはやたら太ったオッサンがいた。カードで宿泊料の支払いを済ませると、そのオッサンは俺の名前を見るなり「日本人の2人の女の子がオマエを探していた。」と言った。チワワ鉄道で会ったユカリさんキエさんだとすぐに分かった。が、彼女達は今朝チェックアウトしてしまっていた。ほんの数時間の差で再会できなかったのは悔しい。今回もここのユースはプライベートルームにしてみた。バス・トイレ共同の部屋にしたのになぜかバス・トイレ付きの部屋。しかもかなりきれいな部屋だった。去年はこんな部屋がここのユースにあるとは思いもしなかった。

 

 年と同じようにユースの外のベンチでタバコを吸いに行くと日本人が座っていた。札幌から来た学生のナカヤマ君。しばらくベンチに座って話をしていた。その後、俺はメキシコのペソをUSドルに両替するために再び国境付近へと向かった。アメリカ側に両替所があるのかが不安だったが、国境の橋のすぐ側に両替所はあった。エルパソにいる間ファレスで使う分だけを残してすべてUSドルに替えた。思ったよりもUSドルが多く返ってきた。両替所のオバチャンがミスったらしく$10ぐらい得をしていた。これで一安心。USドルの現金が手に入った。ユースへの帰り道、久し振りにマクドナルドでビッグマックドクターペッパー。ドクターペッパーを飲んだらアメリカに戻ってきたことを実感した。そう言えば、もう夕方の5時なのに今日は朝から何も食べていなかった。

 

 ースに戻るとアントニオが起きてきていた。寝起きで機嫌が悪かったのか、再会を喜ぶでもなく、第一声が「ちょっと待ってろ!いま行くから。」だった。外のベンチでさっき会ったばかりのナカヤマ君と話をしてると、やっとアントニオが出てきた。とりあえずアメリカ人お得意のハグで再会の挨拶。アントニオは「Bad time !」と連発していた。なんでも、また車をぶっ壊しちまったらしい。昨日もなんだかんだで寝たのが朝の6時で、仕事も嫌だ嫌だと言っていた。今夜はアントニオの出勤は夜の10時かららしかった。なもんで、6時半に待ち合わせてファレスのクラブに繰り出そうと言うことになった。が、ナカヤマ君と待っていたが、アントニオは現れなかった。疲れてまた寝てしまったらしかった。

 

 夜はすることもないのでナカヤマ君とユースのキッチンで自炊することにした。スーパーまで買い出しに行ったが、すでに閉まっていた。相変わらずエルパソのダウンタウンの店は閉まるのが早い。けっきょく、ユースの裏のガソリンスタンド兼コンビニにいったが材料がない。で、カップヌードルとブリトーを買って夕食にした。本当はスパゲッティでも作りたかったのだが・・・。ナカヤマ君はテロ事件直後なのにこれからニューヨークへと向かうチャレンジャーだ。新しく航空券を買い直すお金がないから、いま持っているニューヨーク発の航空券で日本に帰らなければならないのだ。なんでもラスベガスで現金を使い過ぎたらしく、これから先の20日間の旅を不安がっていた。夕飯を作って食った後、ビールを買ってきて俺の部屋でいっしょに飲んだ。これから俺が向かうであろうフェニックスをナカヤマ君は通ってきたので、いろいろと情報を教えてもらった。

 

 カヤマ君が自分の部屋に戻った後、俺はフロントに行き、仕事中のアントニオと少し話をした。アントニオは今日、約束をすっぽかしたことを謝っていた。でもって、明日の夜はファレスに行く約束をした。部屋に戻って俺はシャワーを浴びた。お湯が出る。タオルがある。メキシコを旅してきた俺にとっては天国だった。


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